血液透析と同じように、腹膜透析施行時にもかゆみはみられます。腹膜透析は血液透析に比べると小さな物質の除去には優れていますが、大きな物質の除去については十分とはいえません。かゆみの原因となる物質は多様で、腹膜透析により除去しきれなかった物質が原因で、かゆみを引き起こしてしまうこともあります。またカテーテルの出口部が、カテーテルを固定するテープによりかぶれたり、感染症を予防するために使用される消毒液でかぶれることもあり、これらがかゆみの原因になることもあります。特に、出口部は感染症を起こしやすく、腹膜炎になってしまうこともあるので、出口部の皮膚をよい状態に保つことはとても大切です。患者も出口部のケアを気にされているため、かゆみがあっても掻いてはいけないと思い込んでしまい、余計にかゆみが気になってしまうこともあるようです。当院の調査では血液透析よりも腹膜透析でかゆみのある患者が多い傾向がみられたため、腹膜透析患者用の聞き取りシートを用いて積極的にかゆみ治療に取り組んでいます。
血液透析のかゆみの場合は透析条件を見直すことで改善されることも多いのですが、腹膜透析は血液透析のように細かく透析条件を変更できないため、薬物治療に頼ることが多くなります。例えば、腹膜透析でかゆみのために透析方法を見直す場合、バッグ交換の回数を増やしたり、血液透析と併用したりすることで対処しますが、その結果、患者自身の負担が増え、腹膜透析のメリットである自由度が活かされなくなることがあります。そのため、かゆみの状態や患者の希望を踏まえながら、対処方法や治療について検討します。
血液透析と同様、尿毒症物質が除去しきれないためにかゆみが出ると考えられる場合、まずは、尿毒症物質を減らすことを考えます。例えば、かゆみの原因の1つといわれている副甲状腺ホルモンの値が高い方には副甲状腺ホルモンを下げる治療を行い、血液中のカルシウムやリンの値が高い方には食事指導を行うなど、それぞれの目的に応じた対処を行い、改善を図るようにします。
透析条件の変更やかゆみの原因物質への対策で改善がみられない場合、外用薬や内服薬を上手に使ってかゆみをコントロールします。感染がなく出口部の皮膚が荒れている場合は、皮膚の状態に応じてステロイド外用薬などで出口部の状態を改善します。広範囲の皮膚のかゆみには、まず保湿剤を使用し、治らなければステロイド外用薬や抗ヒスタミン入りの外用薬などを塗布します。外用薬で治らないかゆみについては、抗アレルギー薬をはじめとした内服薬で治療を行います。また、中枢神経のバランス異常を是正する選択的カッパ受容体作動薬が腹膜透析でも使えるようになりましたので、かゆみで難渋する腹膜透析患者のかゆみ治療の選択肢も増えました。担当医とよく相談しながら治療を進めていただきたいですね。
よい透析とは、透析が辛くなく、活動性にあふれた毎日を保証する治療だと思います。四六時中かゆかったり、かゆみのせいで夜眠れないのでは、せっかく腹膜透析を選んでも生活を十分に楽しめないでしょう。特にカテーテルの出口部のかゆみはかゆくても掻けないため、精神的な負担も多くなります。「たかがかゆみくらい・・・」と思わずに、医師や看護師、ご家族の方に遠慮なく相談してください。あきらめずに、治るまでいろいろなかゆみ治療を試してみることが大切です。